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第二章 「解析」




 約束の時間の一〇分前には何とか喫茶アルテイシアに着いた。外観はいつも見ているが、近くでまじまじ見るとやはり独特の雰囲気を感じる。道沿いに面している壁には小さな丸い窓が二つ程あるだけで、その窓の間に大きく両開きの扉が存在感を出している。その扉の上に小さく『喫茶アルテイシア』と書かれたモニュメントがありこれがなければ何の店か判らないだろう。
 私は始めて入る店に少し緊張しながら取手に手を掛けるとゆっくりと開けた。予想はしていたとはいえ店内は別世界に迷い込んだような感覚を私に与えその場に立ち尽くしてしまった。
「おーい!」
 奥の方から聞き覚えのある声が・・・というか昨日も聞いていた声が聞こえた。私達に気付いた中馬君が手を挙げている。一番奥の席に倉橋君と向かい合わせに座っていた。
 私達はそのテーブルまで行くと、空いている席に座る。当然のように美歩は中馬君の隣に座ると、必然的に私は倉橋君の横に座ることになる。・・・少し緊張・・・ 。
「いらっしゃいませ!」
 若い女性の声が近くで聞こえた。私は声のする方に振り返ると、
「!」
 何処かで見たことのある顔・・・、そうだ二年の倉橋佐緒里さんだ。この学校にこの地域では珍しい倉橋性が三人いてその一人が彼女だ。三人もいれば珍しくないような気もするけど・・・。
「ご注文は?」
 佐緒里さんが慣れた声色で注文を取る。
「俺はコーヒー。お前らは?」
「私はレモンティー!」
 私も美歩と同じレモンティーにした。
「コーヒーとレモンティーね。巧巳はいつものでいいよね」
 横の倉橋君が小さく頷く。・・・・・って、な、何で呼び捨て?それも下の名前で。私は倉橋君の方に向き、その整った横顔を見つめながら、
「倉橋君ってお姉さんいたっけ?」
 取りあえず聞いてみる。
「いいや」
 相変わらず言葉が短い、短すぎるぞ!これでは会話にならないじゃないの。
「佐緒里さんは一応巧巳の従姉にあたるんだよ」
 中馬君が注釈を入れてくれた。
「一応?」
「従姉っていっても、ここのマスターは巧巳の叔父にあたるんだけど、佐緒里さんはマスターの再婚した奥さんの連れ子だから形式上は従姉だけど、血縁上は他人なんだ。だから一応」
 このアンティークな喫茶店が倉橋君と関係があったなんて、しかも佐緒里さんとの関係も複雑だ。恋愛に発展しないとも限らない。
 学校でも倉橋君には隠れファンのような輩が結構いる。でもいつもの無愛想さで誰も声を掛けられずにいるのが現状だ。そんな中、私は中馬君と美歩のおかげで少し近い位置にいて他より一歩リードしていると思う。 佐緒里さんが倉橋君のことをどう思っているかにもよるけど、強敵が現れた。
「まあ、そんなことはどうでも良いことだから置いといて、例の事件のことで巧巳が何か気付いた事があるらしいんだ」
 私にはどうでも良くない!それに昨夜の出来事が事件になっている。少し大袈裟じゃない?
「気付いた事って何?」
 美歩が興味深そうに身を乗り出して訪ねた。
「昨日の鬼火だけど、あれは作り物だ!」
 倉橋君がまたまた大胆な発言。
「鬼火って作れるの?」
 これは私の素朴な意見。
「割と簡単に作れるさ、材料も大した物はいらないし手間もそれ程かからない。作り方は・・・。」
 倉橋君が言うには、綿の布と糸(毛糸のようなものがベストらしい)があれば本当に簡単にできるそうだ。まず綿の布を適当な大きさ三〜五センチ四方位に切って、それをボール状に丸め、その上から糸をぐるぐると巻き付けて綺麗な球状にする。それにライターオイルを染み込ませて火を着けると鬼火のような青白い炎に成るのだそうだ。
 その火を細いワイヤーか何かで吊るせば、あたかも浮遊しているように見せることが出来、鬼火というのは基本的に夜に出現する物なので、ワイヤーなどは目に見えることはないらしい。
「確かにあの場所は鬱蒼としているから、そういう細工はやりやすいかもな!」
 昨夜のあの場所を思い出してみる。夜にそれも歩いて行ったことがなかったので、今まで何とも思わなかったが、実際に行ってみると夜の人恋坂の頂上は決して気持ちの良いものではない。木々が左右に鬱蒼と茂り、ただ一つの街灯が逆に寂しさを増強しているようにも感じられる。そして問題の墓地もそれに加算する様に雰囲気を醸し出している。
 中馬君の言っていることは確かに当たっているような気がする。
「でも誰が何のためにそんなことを?それにいつどういうタイミングでするの?」
「そんなこと俺が分る訳無いじゃないか!」
「毎日鬼火を作っているわけでもないだろうし、私達はたまたま偶然居合わせたってこと?」
 私と中馬君との会話が途切れて、その場に僅かに静寂が訪れた時、倉橋君が沈黙を破るように言った。
「あの鬼火を作った者の意図は分らないけど。なぜ俺達があの日鬼火を見たかということを推測すると、二つ・・・いや三つ程臆見がある」
 倉橋君以外の残りの三人は次の言葉を固唾を飲むようにして待った。
「まず一つ目は、本当にたまたま居合わせた。二つ目は俺達が人恋坂に行くということを知っていた誰かが先回りして工作した。そしてもう一つ考えられるのが・・・俺達の中に犯人がいるかだ」
 倉橋君は言ってはならないような事を言っているような気がする。でもそうは思いたくは無いけど一つの選択肢として可能性的にはあり得る。
「消去法で考えてみよう。まず最初の偶然居合わせたというのは、確率的にも低いと思うし、鬼火の出現したタイミングに必然性を感じるので、ほぼ無いと思う」
 私も横で頷く。確率は低くても偶然のいうのはあり得るが、あの絶妙のタイミングでの鬼火出現は意図的な何かが感じられる。
「まあ絶対無いとはいえないけどな!・・・二つ目の俺達が人恋坂に行くのを知っていた誰かが先回りしてというのも行動理由が今一はっきりしないし何のために俺達に鬼火を見させたのかという理由も分らない。ただ驚かせようと思ってやったとしても手が込みすぎている」
 その意見についても十分納得できた。
「そして最後の俺達の中にということになると・・・」
 倉橋君はここで言葉を切った。少し言いにくいことなのかもしれない。
「まあ、もしこの意見が正解なら自ずと犯人は分ってくる」
 表情を一つも変えずにそう言いきる倉橋君はニヒルでクールでかっこいいけど少し怖く感じられた。
「それなりの知識があって、あの場所に行くのを知っていて、かつこんな細工が出来るのは・・・この中では・・・」
 私はしばらく呼吸を止めてその先の言葉を待った。他の二人も同じような表情で見守っている。
「中馬!お前だよ」
 倉橋君は中馬君の方に向かって言った。私と美歩も釣られるように中馬君の方に向く。
「・・・・・」
 中馬君は何も答えない。
「まさか賢君が・・・?」
 美歩も呆然としている。
「あの時の状況から考えて、あのタイミングで鬼火を出現させる事が出来るのは中馬しかいないんだよ。それにお前化学好きだったよな?」
 みんな静まりかえって中馬君を凝視している。中馬君も倉橋君から視線を離さず男二人の睨み合いがしばらく続いたけど、中馬君が不意に視線を外し少し笑い顔で答えた。
「巧巳の言うとおり鬼火を作ったのは俺だよ。ある雑誌で鬼火の作り方を見たとき、『嗤う鬼火』の事を思い出して、みんなをびっくりさせようと思ってしたんだよ」
 中馬君が白状した。
「冷静に考えてみると、あの人恋坂に行こうと言い出したのはお前だし、日にちや集合時間を指定したのもお前、そして先頭を歩いて目的地まで先導したのもお前だったよな。あの時随分時間を気にしていたみたいだから、微妙な時間調整をしてたんだろう?」
 倉橋君が淡々と答える。
「鬼火の細工は、前日に翌日の午後十一時くらいに発火するように仕掛けて置いたんだろう。市販のオンオフタイマーでも使ってな。最近の市販のタイマーは安くて高機能のものもあるからな」
 中間君はちょっとした悪戯心でみんなを驚かそうと思ったらしいのだが、倉橋君の説明を聞きよくよく考えてみると私の稚拙な脳味噌でも細かい部分まで十分理解できる。美歩も少し呆れ顔で中馬君のことを見ていた。 (でもあの女の幽霊は・・・!それと私の肩を叩いただれかの事と倉橋君が言っていた白い球体、そして昨夜の夢であって夢でないような奇妙な体験は?)
 鬼火については理解できた。でもその他の現象についてはまだ分からないことばかりだ。私が漠然とそんなことを考えていると、私の心を読み取ったかのように、
「でも俺がしたのは一つの鬼火だけで、もう一つの鬼火とあの女性の霊のことは知らないぞ」
 中馬君は一部を認めたものの、他の出来事については否定した。ということは一つは本物の鬼火って事? 「ということは、一つは本物の鬼火って事か!」
 倉橋君も同じ事を考えていたようで、それを声に出して言い少し考え込むような仕草を取った。左手の人差し指で鼻の頭をゆっくりと擦るようにして何かに集中している。
 これって倉橋君が何か複雑な思考をするときの癖なのかな?でも名探偵ぽくって格好いい!
 頭の中でいつもの妄想に耽っていると、
「ところで倉橋!その右手どうしたんだ?」
 中馬君が自分のしたことを見抜かれてバツが悪くて話題を変えようと思ったのか、それとも今頃気付いたのか、右の手首に付けていたリストバンドを見ていった。
「あっ、これ?」
 私は右手を差し出すようにみんなの目に置くと、どう説明しようか迷いながら、昨夜の夢のことと、朝起きたら夢で掴まれた所と同じ箇所に痣のようなものがあったことを、出来るだけ詳細に話した。そしてリストバンドを外しみんなにその痣を見せた。
「何かすごいことのなってるな!これって痣?」
「多分そうだと思うけど、倉橋君はどう思う?」
 私は倉橋君の前に腕を差し出した。倉橋君は先程の思考から我に返ると、しばらくその痣を見ていたが、何かを感じたのか私の腕を掴んだ。
 ドキ!
 血圧が少し上昇。私の手首を大切なものを触るかのように丁寧に、そして慎重に扱った。そして力の抜けた私の腕を優しくそっとテーブルの上に置くと、
「これ痣じゃないな!」
「!?」
 鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしていたのだろう。倉橋君は優しい笑みを私に向けゆっくりと口を開いた。
「痣が着くということはかなり強い圧力をかけないと着かない。まして手首に着くなんて想像上の痛みを伴うと思うし、この痣の着き方はおかしい」
 そう言うと倉橋君は再び私の腕を取るとその痣の位置に自分の指先を合わせるように掴む。不意に掴まれたこともあってか、再び血圧上昇、さらに脈拍も。
 そんな私の内部行動をよそに倉橋君は、
「この状態から力を入れると・・・」
 手首にちょっとした圧力が掛り痛いという程ではないがそれなりの圧迫感を感じる。
「倉橋痛いか?」
 私は首を横に振った。
「普通痣と言うのは皮膚の色素細胞の異常増殖や、皮膚の内出血によって赤紫色に変色することなんだけど、手首のように細いものを掴まれたときには圧が円状に掛り手首に輪のような痣が出来るんだ。まして手首の細い女性なんかは特にな」
 そう言われてみれば今私は手首全体に圧力を感じている。この力の掛り方だと手首を巻くように痣が出来そうだ。
「だったらこの痣みたいなものは何なんだ?」
 中馬君が結論を求めた。
「はっきりしたことは判らないけど、霊傷じゃないかな?」
「霊傷?」
「凍傷みたいなものかな!」
「凍傷?この真夏に?」
 釈然としないのか、首を傾げながら自分なりに思考を整理しているようだ。でも霊ということをベースに考えるとあり得なくもないような気もする。
「でも何でそんなことがわかるの?」
 いままで黙って私達の話に耳を傾けていた美歩が素朴な疑問を口にした。確かに何で倉橋君にそんなことがわかるんだろう。
「ねえ。私もまぜて!」  
 不意に背後から声が掛かり、振り返るとさっきまで付けていたエプロンを外した佐緒里さんが近づいてきて注文の品をみんなの前に置くと、近くにあった椅子を引っ張り私と直角になるような位置に座った。
「良いのか?」
 倉橋君が少し面倒臭そうに言う。
「今日はこれでおしまい。お父さんが折角だから一緒に話をしてくればって」
 今日はこれでおしまいって。今午前十時、これから忙しくなってくるんじゃないかと多少の心配をしながら、改めて佐緒里さんを見た。髪を肩上辺りで綺麗にそろえていて少しきつそうに見えるけどとても綺麗な顔立ちをしている。きっとこういうのを美人って言うんだろうな。どことなく倉橋君と似ているような気もする。
「あなたが志緒理さん?」
 佐緒里さんが私の方を見て声を掛けてきたので慌てて視線をそらす。その行為か何だか嫌な態度に取られそうで再び佐緒里さんの方に視線を向けると。
「はい。倉橋志緒理です」
 少しどきまぎしながら一オクターブ高い声で返事をしてしまった。あ〜!私何焦ってるんだろ。
「巧巳が見初めるだけあって可愛いわね」
「!」
 えっ!今なんて!私は何かの聞き違えかなと思い、佐緒里さんの顔をしばらく見つめ、今度は倉橋君の方に向いた。倉橋君は冷静さを保っているようだけど、どことなく表情に強張りがあるのは気のせい?
「さっき少し聞こえたんだけど、どうして巧巳に霊傷とかがわかるかって言うと」
 突然話を戻され、最も聞きたい事が聞けなくなってしまった。出来ればもう少し詳しく話を聞きたかったのだけど・・・。
「巧巳のお父さんとお母さん、十年前に飛行機事故で亡くなって、兄妹もいないし天涯孤独になっちゃったんで、私のお父さんが引き取ることにしたんだけど、その頃から少し変わった子だったのよね」
 倉橋君の両親が亡くなっていたなんて知らなかった。だからあんなに哀愁を漂わせているのかな?そんなことを考えていた私の横で、佐緒里さんは倉橋君の前に置いたミックスジュースを手に取ると自分の物のように刺してあるストローに口を付けた。
 なっ!さっき倉橋君が飲んでたから、それを飲むって事は、間接キッス!
「私も最初は取っつきにくい子だなって思ってたんだけど、十年も一緒にいると色々と解ることもあってね」
 何事もないように話を続ける。
「簡単に言うと巧巳は特異体質なのよ。信じる信じないは別にして」
「特異体質?」
 私の興味は完全にこちらの話に移行してしまった。特異体質ってテレビでやっているような奇人変人体質のことかな!?
「特異体質って行っても奇人変人みたいな者じゃないのよ」
 考えを見透かされたみたいで、少し恥ずかしくなって俯いてしまった。
「どう説明すればいいのかな・・・。簡単に言えば霊能力みたいなもので、要は人に見えないものが見えるって言うか・・・。まあ幽霊が見えるって事かな」
 一旦言葉を止め、再び倉橋君のミックスジュースを飲む。何で?自分のを頼めば、いや作ってくればいいのに。
「でもね、いつも見えるっていう訳じゃないみたいで。本人曰く何かの拍子にスイッチみたいなものが入るんだって。いつどこでどんな状況で入るのかは分からないみたいだけど」
 俄に信じがたいことをサラッと言いのける佐緒里さんを見ながらも、ついつい倉橋君のミックスジュースに視線が行ってしまう。
 この二人どんな関係?・・・気になる・・・。
「それで昨日倉橋に夜気を付けろって言ったのか。で何が見えたんだ?」
 中馬君は何かを納得したように言った。佐緒里さんの言ったことを疑うことなく信じたようだ。まあ倉橋君との付き合いも長いようだからそれなりに感じていたことがあったのかもしれないけど。
 でも倉橋君はその中馬君の問いに答えようとはしなかった。何か言いにくい事でもあるのかな!私に関することだから多少の不安を感じる。
 そう言えばあのことを言ってなかった。
「私もう一つ言ってない事があるんだけど」
 私のその言葉に四人の視線が一斉に私の顔に突き刺さった。なぜだかその視線に痛みを感じながら、
「昨日人恋坂で鬼火を見たとき。誰かが私の肩を叩いたような気がするの」
 私達は横向きに一列に並んでいて、背後には五人目の存在がない限り絶対誰もいなかった。鬼火に関しては中馬君の悪戯だったようだけど、あの時の感覚は今でもはっきり覚えている。その時の状況を簡単に説明した。
 佐緒里さん以外は現場にいたので状況の飲み込みが早いようだ。
「気のせいじゃないの?」
 佐緒里さんが一笑に付した。
「私も最初はそう思ったけど、佐緒里さんの話や、この手首の痣のことを考えるとひょっとして誰かが居たのかなって」
 その時の状況を思い出して私は小さく身震いした。その行為に反応してくれたのか倉橋君が重い口を開き始めた。
「確かに俺にはいつもって言う訳じゃないけど人に見えないような何かが見えるときがある。あの時みんなも見てたと思うけど女の人の霊が現れ、彼女が消えたときその場所にまだ小さな玉のようなものが残ってたんだ。これは多分みんなには見えないものだったんだと思う」
 確かに私にはそんなものは見えなかった。
「みんなが走って逃げ始めたら、その玉は追いかけるようにみんなの方に移動して、その玉が俺の横を通過したとき、その玉の中に女の人の顔が見えたんだ。その顔は俺の方を横目で見ると、まっすぐ倉橋の方に向かっていき、背中にぶつかったように見えたんで、俺は中馬に連絡して倉橋に注意するように言ってもらい、しばらくその場に居たんだけど、その後何も起こらなかったので家に帰ったんだ」
 あの無口な倉橋君が何とこんなにも言葉を発するとは、やれば出来るじゃない!
「多分その時の霊が倉橋に憑いて何かを訴えようとしたんじゃないかと思う」
 そこで閉口してしまい。次の言葉は出てきそうになかった。
 私に霊が憑いてるの?今の話だと偶然私という訳ではなく意図的に私に憑いたように聞こえたけど、なぜ私?
「それ程邪気のようなものは感じなかったから大丈夫と思うけど用心するに越したことはないから」
 私を安心させようと思ったのか、倉橋君はいつもの無愛想な表情に戻り私に言った。これって照れ隠しなんだとわたしは倉橋君の性格の一部を垣間見たような気がして少しうれしかった。
 それから大した話の進展はなく、会話はごく一般的な世間話になっていき、お昼前には解散した。中馬君と美歩はせっかくの日曜だからといって二人で映画を観に行ってしまった。私と倉橋君と佐緒里さんはしばらく「アルテイシア」にそのままいてたわいのない話をしていたが、時間も正午を過ぎた頃お客さんも少しずつ増えてきたので、佐緒里さんは再び店の手伝いに戻り、私と倉橋君も余り長居をしても悪いので店を退出することにする。
 店を出ると私と倉橋君は肩を並べるようにして歩いた。しばらく無言状態が続いたが、思い切って私の方から声を掛けた。
「倉橋君って、佐緒里さんの家に一緒に住んでるの?」
 こんな事聞いて良いのかな?
「俺が五歳の時、両親が事故にあったから、それ以来ずっとおじさんに世話になっているし、佐緒里は姉貴みたいなものだから、相談なんかにも乗ってもらっている」
 前を向いて歩きながらボソッと言った。
 佐緒里さんが倉橋君のことをどう思っているか分らないけど、倉橋君は佐緒里さんのことをお姉さんみたいに思っているのか!少しほっとしたような・・・でもどんな相談しているんだろう?恋愛の相談とかしているのかな?
 余りイメージがわかないけど・・・。
「ねえこれからどうするの?」
 まだお昼過ぎ、時間はたっぷりある。私は期待を込めて言ってみた。              


第二章 「解析」    完