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第六章 「エピローグ」




 翌朝、私は心地よい眠りから覚めた。昨日のことが何事も無かったかのように感じられる。体調も悪くないようだ。私はベッドから出て大きく背伸びをすると、洗面所に行き歯磨きと洗顔を済ませ、制服に着替えるとリビングに向かった。
「あれ!?」
 私は辺りを見回して、"ここは確かに私の家だよね。"確認OK。もう一度前を見る。やはりソファに座っている倉橋君が見える。
「おはよう!」
「お、おはよう。えっ!何で?」
 その理由は奥のダイニングから出てきたお母さんが答えた。
「朝迎えに来てくれたのはいいけど、外でずっと待ってもらうのもどうかと思って、だって志緒理の彼氏なんでしょ!お母さんも仲良くしないと」
「べ、別に、か、彼……」
「巧巳君も朝食一緒にどう?」
 私の言葉を完全に無視して、にこにことした表情で言った。お父さんはすでに仕事に行ったようだ。倉橋君と会っていったのかな?
「いえ、僕はもう朝食を済ませてきましたので」
 丁寧に辞退の言葉を述べた。
「それに、余り時間が無いと思いますが」
 倉橋君のその言葉に、テレビの上にある大きな掛け時計を見ると、すでに八時を回っていた。
「本当だ!もうこんな時間」
 私はダイニングテーブルに置いてあった皿の上からソーセージを摘むと、口の中に放り込み、
「ひっへひはふ」
 日本語とはほど遠い、異国の言葉どころかこの世に存在しない言語を発し、倉橋君を促して玄関に向かった。後方で「はしたないことをして」というお母さんの声が聞こえたが、聞こえないふりをして家を出た。
 外はすがすがしい空をしていた、私は今のはしたない態度を反省しながら歩く、今の倉橋君どう思っただろう。少し恥ずかしかった。
 折角二人で歩いているのに、無言のままって、どうだろう?倉橋君から声をかけられることに期待はできないので、私の方から声を掛けた。
「でもどうして霊能力なんて皆無に等しい私や、佐緒里さん、片岡さんにまで彼女は見えたのかな?」
 私の素朴な疑問に倉橋君はいつもの無表情な顔で、
「多分俺がアンプ、…増幅器のような役割をしたんだと思う」
 増幅器?なるほどそれなら私にでも理解が出来る。怪談話をすると霊が集まってきて、その中の数人に何かが見えたという人がいるけど、あれも一種のアンプ作用で潜在的な恐怖や思い込みで精神的作用が働き、そう言ったものが見えやすくなるって事かな?
 自分なりに納得して、頭の中で整理をすると、隣を歩いている倉橋君に、
「ねえ!今度の日曜日、映画でも観に行かない?」
 私はさり気なく誘ってみた。少しどきどきしている。しばらくの沈黙の後、
「いいよ」
 倉橋君は前を向いたまま答えた。その横顔を見ながら私は心の中で大きくガッツポーズをしていた。





「嗤う鬼火」 完